マサチューセッツ工科大学(アメリカ)滞在記
元良 直輝 (数理解析系・修士課程2年)
本海外渡航における成果は大きく分けて三つある。一つ目は、自身の修士論文における結果について新しい展望が開かれた点である。具体的には、私は自身の修士論文の中で、 $W$ 代数をスクリーニング作用素と呼ばれるものを用いる構成法を示しその応用として二つの予想を証明したのだが、そのスクリーニング作用素の出自が一般には分かっていなかった。しかし今回の渡航期間における議論の中で、その出自が明らかになり、その後の新たな数学的発見に繋がるものであることが分かった。この発見は私の今後の研究の中で確実に生かされるであろう最も直接的な成果である。二つ目は、私の研究主題である表現論に関する知見を深めた点である。表現論に関するセミナーに参加したことやVafa教授のセミナーおよび荒川先生の授業を受けることなどにより、幅広く予想や問題点を認識することが出来た。三つ目は、MITにおける意識の高い研究姿勢を経験した点である。MITは数学を含めたひと通りの理系の分野が一つの建物として繋がっており、他分野間の交流が盛んである。それによって学生の間でも理系全体に関する知識を共有できたり、その研究姿勢を高めあうことが出来る。それはMITの施設内の環境にも表れていて、好きな場所で好きなように食事をし、研究をし、議論を交わせるように黒板・教室・カフェスペースがそこかしこに設置されていて、学生にとっては理想的な研究環境であるように思われた。MITの中にいるだけで研究と実生活が一体となっているのを肌で感じた。またそれに伴うように、MITでの授業およびセミナーは研究に意識を向ける学生のために常に配慮されている。特に無限次元代数セミナーにおける講演は私にとって非常に大きな刺激なった。無限次元代数セミナーはKac教授およびPavel Etingof教授によって取り仕切られていて、Etingof教授の驚くほど幅広い表現論にまつわる知識がセミナーにおいて惜しげもなく披露され、私は常に圧倒されていた。この経験は日本に帰ってからも強い記憶として残り、私の数学を研究するモチベーションを常に高めてくれるであろう。
MITの雰囲気は、自由でいて研究に対する高い意識を感じさせるものだった。学生はそこかしこで食事・研究・議論に没頭し、教授たちはそんな学生たちに対して寛容であった。そういった環境こそがやはりMITを世界最高レベルの大学たらしめているのだ、と感じさせてくれた。ただの訪問者である私にとってさえ快適に感じられたMITの研究環境は、学生らにとってはまさに理想であろうと大変羨ましくも感じた。またの機会があれば何度でもMITに訪れたいと強く思ったし、可能であればここで研究をしたいとさえ思った(世界最高峰の大学なのだから、そう思うのは誰でも当たり前なのかもしれないが)。
ボストンには西欧人だけではなくアジア系の人もたくさん生活しており、日本人だからといって特別目立つようなこともない。街の人々は気さくな人が多く、自由な気風が流れていたように思う。私にとってボストンは物価が高いということ以外は大変住みやすく、また機会があればぜひとも行きたい街であると感じた。